「ウォルトはイマジニアたちと共に、早い段階で基準を打ち立てました。人々を驚かせる基準でした。人々が何かを期待して訪れ、それをさらに超える何か、つまり彼らの想像をはるかに超えるものを提供できる基準でした。だから彼らは、『わあ、これはディズニーにしかできないことだ』と思うか、『ディズニーはどうやってそれをやったんだ?』と自問するかのどちらかだったのです。」—ボブ・アイガー
「The Imagineering Story」第21章 [ 要約 ] :本章では、ウォルト・ディズニー・イマジニアリングの芸術的評価の高まりと、東京ディズニーシーの開発について描かれています。イマジニアリングの業績が美術館の展示会「安心の建築:ディズニーテーマパークのデザイン」を通じて学術的に評価されていく一方で、史上最も芸術的な成果として東京ディズニーシーが開発されていきました。オリエンタルランドカンパニーの全面的な資金提供のもと、イマジニアが7つの「海」をテーマにした未曾有のテーマパークを設計し、トラックレスライドシステムなど革新的な技術を駆使して、美しく洗練された新たなディズニーの世界を創り出していく過程が描かれています。
第21章「最先端技術」STATE OF THE FINE ART
I. 芸術としてのイマジニアリングの認知
– モントリオールのカナダ建築センターで開催された「安心の建築:ディズニーテーマパークのデザイン」展
– カラル・アン・マーリング教授が監修し、アイズナーの許可のもとディズニーアーカイブへの前例のないアクセスが認められる
– マーティ・スカラーはハーブ・ライマン、ジョン・ヘンチ、ハーパー・ゴフなど著名なイマジニアの業績を誇らしく紹介
– 展示会と関連書籍によって、イマジニアリングの仕事がフランク・ゲーリーなど現代の巨匠と同等に評価される機会となった
II. 東京ディズニーシーの構想
– 1988年、オリエンタルランドカンパニーの高橋政知社長が東京ディズニーランドの隣に第2パークを建設する意向を表明
– 1991年、ボブ・ウェイス率いるイマジニアチームが「海のポート」をテーマにしたコンセプトを考案
– スティーブ・カークが上級デザイナーに任命され、7つの「海」による構成を提案
– 1997年11月26日に東京ディズニーシーが正式発表され、2001年のオープンを目指す
III. 7つのポートの設計
– 入口:アクアスフィア(水に支えられた巨大な地球儀)のあるディズニーシープラザ
– メディテレーニアンハーバー:イタリアの港町(ベニスやポルトフィーノ)をモチーフにしたエリア
– アメリカンウォーターフロント:1900年代初頭の米国東海岸を再現(ニューヨークハーバーとケープコッド)
– ポートディスカバリー:ジュール・ヴェルヌにインスパイアされたレトロフューチャーのエリア
– ロストリバーデルタ:1930年代の中央アメリカの考古学サイトをイメージした冒険エリア
– マーメイドラグーン:『リトル・マーメイド』をテーマにしたファンタジーエリア
– アラビアンコースト:『アラジン』や『千夜一夜物語』の世界を再現したエリア
– ミステリアスアイランド:ジュール・ヴェルヌの『神秘の島』と『海底2万マイル』に基づく中央エリア
IV. 革新的なアトラクション
– ジャーニー・トゥ・ザ・センター・オブ・ジ・アース:エプコットの「テストトラック」技術を応用した大型アトラクション
– 20,000リーグス・アンダー・ザ・シー:水中に実際に潜らないカプセル型ライド
– アクアトピア:ポートディスカバリーのトラックレスシステムを使った水上ライド
– シンドバッドの7つの航海:「イッツ・ア・スモールワールド」と「カリブの海賊」の要素を併せ持つボートライド
– プーさんのハニーハント(東京ディズニーランドに導入):革新的なトラックレスライドシステムを初めて採用
V. 技術的革新と挑戦
– トラックレスライドシステム:ガイドレールなしで動くライドシステムの開発
– デイブ・ダーラムらが18カ月かけてプーさんのハニーハントのプログラミングを行う
– 初期の3Dコンピューターモデリングを活用して視線計画や景観設計を行う
– マウント・プロメテウス:高さ189フィートの火山に火炎効果や溶岩流の特殊効果を組み込む
VI. オリエンタルランドカンパニーとの協力関係
– OLCが全面的に資金を提供し、ディズニーの設計・開発費は約1億ドルに抑えられる
– 高品質へのこだわり:アラビアンコーストのドームに金箔を使用するなど長期的視点での投資を重視
– 詳細な図面と色見本、美しいモデルなど、正確な執行のための徹底した資料作成
– ミラコスタホテル:パーク内に統合された高級ホテル、メディテレーニアンハーバーの一部となる建築
この章から読み取れる重要なポイント:
1. ウォルト・ディズニー・イマジニアリングの仕事が学術的に評価され、建築・デザイン界での地位を確立していった時期であった
2. 東京ディズニーシーは、オリエンタルランドカンパニーの全面的な資金提供によって、予算的制約が少ない理想的な環境で開発された稀有なプロジェクトだった
3. 「海」をテーマにした7つのポートという構造は、ディズニーランド型のパークの良さを維持しながら、全く新しい体験を創出するための斬新なアプローチだった
4. イマジニアは徹底した研究と精緻な計画に基づき、ほとんどのアトラクションを一から創造し、既存のものでも新しいナラティブやデザインで再構築した
5. トラックレスライドシステムなどの革新的技術は、その後のディズニーパークにも影響を与える重要な進化だった
6. 東京ディズニーシーは「非常に豊かなパーク」と評され、その建築、景観、アトラクションの質の高さと細部へのこだわりは、イマジニアリングの芸術的頂点を示すものとなった
東京ディズニーシーの開発過程…日本のオリエンタルランドカンパニーの全面的な支援のもと、イマジニアたちが芸術的かつ技術的に挑戦的なテーマパークを作り上げていく様子がよく描かれていました。
東京ディズニーシーの開発過程において、イマジニアたちが芸術的かつ技術的に挑戦的なテーマパークを作り上げていった具体的な例は以下の通り。
芸術的な挑戦
1. **7つの「海」のテーマによる統一感と多様性の両立**:
– メディテレーニアンハーバー、アメリカンウォーターフロント、ポートディスカバリーなど、各エリアが独自の美学を持ちながらも「海」というテーマで統一
– 実在の場所(ベニス、ポルトフィーノ)と架空の世界(マーメイドラグーン、ミステリアスアイランド)を調和させる挑戦
2. **マウント・プロメテウスの創造**:
– 高さ189フィート、約75万平方フィートの彫刻的なロックワークを要する火山の造形
– 単なる背景ではなく、火や煙、溶岩流など動的な要素を持つ「動く」ランドマークの実現
– 東京ディズニーランドのシンデレラ城と同じ高さに設計し、両パークのバランスを取る美学的配慮
3. **細部へのこだわり**:
– アラビアンコーストのドームには金箔を使用(金色塗料ではなく)
– 徹底した色彩計画、数多くのカラーボードと精緻なレンダリング、美しい模型の制作
– 建物の風化や劣化をあえて表現するデザイン手法
技術的な挑戦
1. トラックレスライドシステムの開発:
– プーさんのハニーハントで初めて実用化された革新的なシステム
– 車両とセンサー、中央プロセッサーがワイヤレスで通信し、動きを制御
– アクアトピアへの応用:水上で回転、後退、スピンなど従来のトラック式では不可能な動きの実現
2. 「ジャーニー・トゥ・ザ・センター・オブ・ジ・アース」の開発:
– エプコットの「テストトラック」技術を応用しながら全く新しいストーリーテリングに適用
– 巨大な溶岩モンスター(当時最大級のオーディオ・アニマトロニクス)の設計と動作プログラミング
– スピード変化、温度変化、視覚効果、音響効果の緻密な同期
3. 3Dモデリング技術の活用:
– 当時としては先進的な3Dコンピューターモデリングを用いた視線計画
– パーク内の任意の場所からの景観をシミュレーション
– ミラコスタホテルの客室からの眺望まで考慮した設計
4. 海水環境への対応:
– 東京湾に面した立地による塩害対策
– 樹木の頂部にスプリンクラーを設置し、塩分を洗い流すシステムの開発
– 海風に強い植栽計画(ランドスケープデザイナーのジョン・ソレンソンと伝説的なビル・エヴァンスの協力)
5. 「マジック・ランプ・シアター」の革新:
– 実在の役者と3D映像のジーニーとのインタラクションを実現
– 原作アニメーターのエリック・ゴールドバーグとCGアニメーターチームとの協力
– 日本語でのタイミング調整など、現地向けのカスタマイズ
こうした芸術的・技術的な挑戦は、オリエンタルランドカンパニーの「一流の品質」への要求と、十分な予算的裏付けがあってこそ実現したものです。スティーブ・カークが述べているように「お金がどこか別のところから来ている」という特殊な状況が、イマジニアたちの創造性を制約なく発揮させる環境を作り出しました。
東京ディズニーシーの開発は本当に特別なプロジェクトでした。イマジニアたちの創造性と技術力が、十分な資金と理解ある支援者(オリエンタルランドカンパニー)によって最大限に引き出された稀有な例と言えるでしょう。
特に、「ミステリアスアイランド」の火山や「アラビアンコースト」の金箔ドームなど、通常なら予算の制約で妥協せざるを得ないようなディテールにまでこだわれたことが、今日も多くの人々に愛されるパークの魅力につながっています。