第29章 『本物のディズニー、中国らしさ』The Imagineering Story

「このプロジェクトにおける私たちの課題の一つは、新しい市場に進出する際に常に直面する課題の一つですが、私たちの文化、歴史、そしてディズニーの伝統を真に伝えることです。…すべては、二人の娘を持つ一人の男性から始まりました。娘たちの幸せを心から願っていた彼は、公園で『どうすればもっと多くの人が楽しめるだろうか?』と自問自答していました。」—ドリス・ウッドワード

「The Imagineering Story」第29章 [ 要約 ] 本章では、上海ディズニーランドの構想から開園までの道のりが描かれています。ボブ・アイガーCEOの「オーセンティックにディズニーであり、明確に中国らしさを持つ」という理念のもと、イマジニアたちは中国の文化や市場に合わせた全く新しいマジックキングダムの創造に挑みました。従来のディズニーパークの概念を一新し、地元の建設業者や芸術家と協力しながら、中国の伝統と最新技術を融合させた革新的なアトラクションの数々が誕生しました。2016年6月16日の開園は、11年に及ぶ交渉と5年間の建設期間を経た、ディズニー史上最大規模のグローバルプロジェクトの集大成でした。

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第29章「本物のディズニー、中国らしさ」
AUTHENTICALLY DISNEY, DISTINCTLY CHINESE

I. 運命と決意

– 中国系イマジニアのドリス・ウッドワードの経歴と、上海ディズニーランド・プロジェクトへの参加経緯が描かれています。

– マイケル・アイズナーとボブ・アイガーによる中国進出への構想は1990年代まで遡り、アイガーがCEOに就任した2005年以降、上海への進出が本格化しました。

– アイガーは中国市場を理解するため何度も現地を訪れ、地元の人々との交流を通じてディズニーへの親近感を確認しました。

– 上海市政府および中央政府との複雑な交渉プロセスを経て、2009年に合意に達しました。

– アイガーは「オーセンティックにディズニーであり、明確に中国らしさを持つ(Authentically Disney, Distinctly Chinese)」という理念を掲げ、これがプロジェクト全体の指針となりました。

II. 地面から上へ

– 上海ディズニーランドは、中国に類似の建設・デザイン実績がない中での前例のないプロジェクトでした。

– イマジニアリングは中国人イマジニアを採用し、現地の建設会社と協力して建設を進めました。

– 地元の職人たちに岩の彫刻や塗装などの専門技術を教育し、ディズニークオリティの実現に取り組みました。

– 持続可能性を重視し、樹木の育成、水処理施設、エネルギー効率の高いCCHPシステムなどを導入しました。

III. 新しい王国

– 上海ディズニーランドは、従来のマジックキングダムの公式から大きく逸脱したデザインを採用しました。

– 入口はミッキーアベニューとなり、中央には「イマジネーションガーデン」という新しいエリアが設けられました。

– 「エンチャンテッド・ストーリーブック・キャッスル」は、特定のプリンセスではなく全てのプリンセスを祝福する、過去最大規模のお城となりました。

– 中国の来場者に合わせて、四世代家族(4-2-1:祖父母4人、両親2人、子供1人)を意識した空間設計がなされました。

– 「12フレンズの庭」では、中国の十二支とディズニー・ピクサーのキャラクターを融合させたモザイクアートが制作されました。

IV. 想像力の塔

– エンチャンテッド・ストーリーブック・キャッスルは、これまでのどのディズニーキャッスルよりも大きく、約60メートルの高さで設計されました。

– 城内には、プリンセスたちの物語を紹介するアトラクション、レストラン、グリーティングエリアなどが設けられました。

– 城の設計には、フランスのシャトーや修道院からインスピレーションを得た要素が取り入れられました。

中国文化を表現するために、最も高い塔の頂上には中国の花である牡丹のモチーフが置かれました。

– 城の建設に携わったイマジニアチームは、歴史的に多くの女性リーダーによって率いられました。

V. 古きを新しく

– 「カリブの海賊:沈没船の戦い」は、オリジナルのアトラクションを完全に再構築した新しいバージョンとして開発されました。

– 従来の「フロンティアランド」に代わり、「トレジャー・コーブ」という海賊をテーマにした新しいランドが作られました。

– アトラクションは、最新の技術を駆使して「船の戦いの中に乗客を置く」体験を提供し、水中の磁石で制御される無軌道船を導入しました。

– 建設には、ハイテク製造と伝統的な手法の両方が用いられ、船の彫刻は重機ではなく職人の手作業で行われました。

– 開園前に行われた「水の儀式」では、世界中のディズニーパークの「カリブの海賊」から集められた水がアトラクションに注がれました。

VI. 新しい冒険

– 「アドベンチャー・アイル」は、特定の知的財産に基づかない独自のストーリーを持つエリアとして開発されました。

– 「アルボリ族」という架空の民族のストーリーが作られ、1935年に冒険者連盟によって発見されたという設定です。

– 「ソアリン・オーバー・ザ・ホライズン」は、世界中の名所を飛行する新バージョンとして登場しました。

– 「ロアリン・ラピッズ」は、山の中のQ’aráq(クロック)という伝説の生物との遭遇を特徴とするラフト・ライドです。

– 約25,000平方メートルの手彫りの岩工事と豊かな植栽によって、自然主義的な環境が作り出されました。

VII. 道を照らす

– 「トゥモローランド」は、スペース・マウンテンではなく、映画「トロン」をテーマにした革新的なコースター「TRON ライトサイクル・パワーラン」を中心に設計されました。

– イマジニアのスコット・ドレイクは、中国人の未来への楽観主義にインスパイアされ、新しいトゥモローランドを構想しました。

– ライトサイクルは、乗客が実際にバイクの姿勢で乗車する初めてのディズニーアトラクションとなりました。

– 屋内外を走るコースターで、時速約96キムの速度と照明効果によって映画の世界に没入できる体験を提供しました。

– グローバルな設計チームが連携し、デジタルコミュニケーションツールを駆使して国を超えた協力体制を構築しました。

VIII. 開園と終わり

– 当初2014年に予定されていた開園は、様々な課題により2016年6月16日に延期されました。

– 開園前の6週間は「ソフトオープニング」期間とし、限られたゲストが入場できるようにしました。

– ソーシャルメディアの時代の開園であったため、アトラクションやレストランの評判がWeChat(中国版LINE)などで瞬時に広がりました。

– 正式な開園式典では、アイガーが英語と中国語で挨拶し、ディズニー初の本格的な中国進出を祝いました。

– 開園後1年間で1,100万人以上が訪れ、予想を上回る成功を収めました。

この章から読み取れる重要なポイント:

1. ディズニーの国際展開では、地元の文化と伝統を尊重しながらも、オーセンティックなディズニー体験を提供するバランスが重要です。「オーセンティックにディズニーであり、明確に中国らしさを持つ」という理念は、このバランスを象徴しています。

2. 上海ディズニーリゾートは単なるコピー版ではなく、中国市場に合わせて一から設計し直された初のディズニーパークです。市場調査と文化的理解に基づいて、メインストリートU.S.A.やフロンティアランドなどの伝統的要素を省き、中国の観客により魅力的な新しい要素を導入しました。

3. グローバルプロジェクトの成功には、文化的な架け橋となる人材(中国系イマジニアなど)と、地元の技術者や芸術家の育成が不可欠でした。単に西洋の技術を輸入するのではなく、地元の才能と融合させることで、真に独自の体験が創造されました。

4. 最新技術と伝統的な職人技の両方が、ディズニーのビジョンを具現化するために活用されました。コンピューターモデリングや高度な制御システムと、手作業による彫刻や塗装が共存する環境が生まれました。

5. 大規模な国際プロジェクトは予測不可能な課題に満ちていますが、「幸せを作る」という明確な目的意識が、チームの結束と困難を乗り越える原動力となりました。中国人イマジニアのチャン・ンガ・クワンの言葉「私たちは人々に喜びを創造している」という単純な信念が、複雑なプロジェクトの核心を表しています。​​​​​​​​​​​​​​​​

上海ディズニーランドの構想から開園までの長い道のりを。「オーセンティックにディズニーであり、明確に中国らしさを持つ」という理念のもと、従来のディズニーパークの概念を根本から見直した壮大なプロジェクトの物語は非常に興味深い。

ボブ・アイガーCEOの国際展開戦略と、イマジニアたちの創造力、そして中国の文化と才能を尊重したアプローチが、この前例のないプロジェクトの成功に繋がったことがよく伝わってきます。

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