「ルーカスフィルムがディズニーファミリーの一員になると発表したとき、イマジニアリングの全員が『おお、これでもっと大きなことをできるのか!』と興奮していました。しかし同時に、『おお、私たちにはこんなにたくさんのことができるんだ』という気持ちから、『おお、これは早くちゃんとやらなきゃ』という気持ちに変わっていったのです。」—スコット・トロウブリッジ
「The Imagineering Story」第31章 [ 要約 ] :本章では、ディズニーによるルーカスフィルム買収後、「スター・ウォーズ:ギャラクシーズ・エッジ」の構想から開発、実現までの過程が描かれています。イマジニアたちはスター・ウォーズの世界観を忠実に再現しながらも、映画には登場しない新しい惑星「バトゥー」と「ブラック・スパイア・アウトポスト」を創造し、ゲストが自分自身のスター・ウォーズの物語を体験できる革新的なテーマランドを作り上げました。「ミレニアム・ファルコン:スマグラーズ・ラン」と「スター・ウォーズ:ライズ・オブ・ザ・レジスタンス」という2つの大型アトラクションと共に、没入感あふれる環境、細部にわたるストーリーテリング、そして最先端のテクノロジーによって、ディズニーパークの新たな可能性を切り開いた壮大なプロジェクトです。
第31章「星々の間で」
AMONG THE STARS
I. 大きな発表
– 2012年10月30日、ボブ・アイガーCEOはルーカスフィルムを40億ドル以上で買収し、スター・ウォーズの権利を獲得しました。
– イマジニアのクリス・ビーティとスコット・トロウブリッジは子供の頃からのスター・ウォーズファンで、この買収発表に大きな興奮を覚えました。
– スター・ウォーズは17,000以上のキャラクター、数千の惑星、200年に及ぶ歴史を持つ巨大な宇宙で、イマジニアリングにとって無限の可能性を秘めていました。
– 新しいスター・ウォーズ・プロジェクトのためのチームが結成され、従来のアトラクション形式を超えた完全に新しい没入型体験の創造に取り組みました。
– トロウブリッジとそのチームは1年半をかけてアイデアを練り、既存の映画の舞台ではなく、ゲスト自身がヒーローになれる新しい場所を創造することを決定しました。
– 2015年8月のD23エキスポで、ディズニーランドとディズニー・ハリウッド・スタジオに各14エーカーの「スター・ウォーズ」テーマランドを建設することが発表されました。
II. 本物らしさの香り
– イマジニアたちは、新しい惑星「バトゥー」を一から創造するため、ラルフ・マックォーリーのオリジナルコンセプトアートを研究し、「スター・ウォーズらしさ」のDNAを理解しようとしました。
– 研究チームはマラケシュ(モロッコ)やイスタンブール(トルコ)を訪れ、神秘的で少し危険な雰囲気と歴史的な重厚感を持つ環境のインスピレーションを得ました。
– ビーティは「目を閉じて、商人の叫び声、祈りの呼びかけ、異なる言語、コーヒーの香り、雨濡れた地面、鳥の飛ぶ音など」を感じることで、視覚だけでなく、匂い、音、触感、味など、惑星の全感覚的な印象を捉えようとしました。
– ランドは「ブラック・スパイア・アウトポスト」と名付けられた古代の木が化石化した塔に囲まれた交易所で、映画の時系列では最終三部作の時代に設定されました。
– 全てのディテール(小道具、建物、飲食物、商品、植物など)は「映画に登場するものだけを使う」という原則に基づいて作られ、コカ・コーラでさえ特別なボトルとラベルデザインを新たに製作しました。
III. レジスタンス
– 「ミレニアム・ファルコン:スマグラーズ・ラン」は、ゲスト6人がミレニアム・ファルコンのコックピットを操縦してミッションを遂行する体験で、110フィート長の実物大の宇宙船をエントランスのアイコンとして設置しました。
– このアトラクションは、28個のコックピットモジュールを4つの回転ターンテーブルに配置するという革新的なシステムで、各モジュールは独自のモーションシミュレーション、投影、オーディオシステムを持っていました。
– 「スター・ウォーズ:ライズ・オブ・ザ・レジスタンス」は、「これまでで最も壮大なアトラクション体験」として、18のシーンと約20分の所要時間を持つ複合型アトラクションとして設計されました。
– このアトラクションは、巨大なセット、投影・照明効果、オーディオアニマトロニクス、キャストメンバーの演技、トラックレス車両、タワー・オブ・テラー型の落下など、複数の技術を組み合わせたものでした。
– トロウブリッジは「これまでで最も複雑なアトラクション」と述べ、様々な乗り物システムの統合と、何百万行ものコードによる制御を実現するために、チームが24時間体制で作業していたことを説明しました。
IV. エッジを超えて
– 「スター・ウォーズ:ギャラクシーズ・エッジ」は2019年5月31日にディズニーランドで、8月29日にディズニー・ハリウッド・スタジオでオープンしました。
– オープン前の最終準備期間は「ゴールへの狂気のダッシュ」と表現され、全ての職種が24時間体制で作業していました。
– レポーターたちは「異世界に歩き込んだような感覚」「完全に別の世界」「信じられないほどの没入感」などと評価し、イマジニアたちの目標が達成されたことを示しました。
– このランドはスマートフォンを「星間データパッド」に変換する「Play Disney Parks」アプリの独自機能や、キャストメンバーのバトゥー固有のバックストーリーなど、新しいレベルのインタラクティビティを導入しました。
– ロビン・リアドンは、こうした仮想現実や拡張現実によるインタラクティブな体験が「次のフロンティア」になると推測し、「アトラクションの定義を再定義している」と述べています。
– ボブ・チャペックは「カーズランドは没入型だった。パンドラはさらに一歩進んだ。これはそれを立方体にした」と評し、このプロジェクトがイマジニアリングの限界を押し広げたことを強調しました。
この章から読み取れる重要なポイント:
1. 「スター・ウォーズ:ギャラクシーズ・エッジ」は、従来の「映画の舞台を再現する」アプローチを超え、ゲストが自分自身の物語の主人公になれる新しいコンセプトを打ち出しました。既存の人気IPに新たな要素を加えることで、ファンの期待に応えながらも斬新な体験を提供する方法を示しています。
2. イマジニアリングの「ストーリーテリング」への徹底したこだわりが、単なるアトラクションの集合体ではなく、一貫した世界観を持つ「土地」そのものの創造につながりました。歩道に刻まれたドロイドの足跡から、店舗の裏にある部屋の物語まで、見えない部分にもストーリーが織り込まれています。
3. 五感全てを刺激する環境設計により、パーク体験の新たな次元が開かれました。視覚的な再現だけでなく、音、匂い、質感、味覚までを考慮し、「スター・ウォーズらしさ」を体現する総合的な環境が実現されました。
4. 最先端技術の限界に挑戦しながらも、その技術を「見えないもの」として扱い、あくまでも物語と没入感を優先する姿勢が、イマジニアリングの哲学を表しています。トロウブリッジの言う「技術のサンドイッチ」は、複数の技術を組み合わせることでより自然な魔法を生み出す試みです。
5. 「スター・ウォーズ:ギャラクシーズ・エッジ」は、フィジカルな環境とデジタルのインタラクティビティの融合によって、テーマパークの可能性を拡張しました。Play Disney Parksアプリとの連携や、キャストメンバーの個別のバックストーリーなど、様々なレイヤーでの物語体験が可能になり、「アトラクション」の概念そのものを再定義しています。
…“五感”すべてを刺激する「環境設計」とは、
「五感全てを刺激する環境設計」というアプローチは、まさにディズニーパークの草創期からの設計思想を受け継いでいます。
クリス・ビーティが章の最後に触れているように、彼はジョン・ヘンチから直接学ぶ機会があり、その経験が「スター・ウォーズ:ギャラクシーズ・エッジ」にも活かされています。ウォルト・ディズニー自身が1955年のディズニーランド開園時から大切にしていた「ゲストを別の世界に完全に没入させる」という理念が、最新技術と融合して新たな形で実現されているのです。
イスタンブールのグランドバザールで目を閉じて「商人の叫び声、祈りの呼びかけ、様々な言語、コーヒーの香り、雨に濡れた地面、鳥の飛ぶ音」を感じるビーティの体験は、彼らがランドを設計する際の重要な指針となりました。ただ視覚的に「スター・ウォーズらしく」するだけでなく、音や匂い、質感、味まで含めて総合的に「スター・ウォーズの世界にいる」という感覚を作り出すことに注力したのです。
これは、ウォルトが「映画は見るものだが、テーマパークは体験するものだ」という考えを現代に受け継いだ素晴らしい例と言えるでしょう。技術は進化しても、イマジニアリングの核心にある「物語を通じて五感で体験する場所を創造する」という思想は、60年以上経った今も脈々と受け継がれています。