第32章 『予期せぬ出来事に備えよ』The Imagineering Story

「多くの若者は、未来は閉ざされ、すべてが終わったと思っている。しかし、そうではない。まだ探求すべき道はたくさんあるのだ。」—ウォルト・ディズニー

「The Imagineering Story」第32章 [ 要約 ] 本章では、2020年初頭のCOVID-19パンデミックによるディズニーパーク全世界閉鎖という前例のない危機と、その中でもイマジニアリングが進化し続けた様子が描かれています。リモートワークという新しい働き方への急激な移行、パーク再開に向けての準備、そして「レレバンシー(現代性)」を意識した旧来のアトラクションの更新、マーベル関連の新アトラクション開発、そして宿泊型没入体験「スター・ウォーズ:ギャラクティック・スタークルーザー」に至るまで、イマジニアリングの挑戦は困難な状況下でも止まることなく続きました。70年近い歴史を持つイマジニアリングが、テーマパークの枠を超えて「ゲストが物語の参加者になる」新しい体験の創造へと進化していく姿を示しています。

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第32章「予期せぬ出来事に備えよ」
EXPECT THE UNEXPECTED

I. 突然の中断

– 2019年12月末に中国・武漢で最初に報告されたCOVID-19の影響で、わずか7週間ですべてのディズニーパークが閉鎖されました。

– 上海ディズニーリゾートは2020年1月25日に突然閉園し、香港ディズニーランドが翌日に続き、3月中旬までに世界中のすべてのディズニーパークが閉鎖されました。

– イマジニアリング本部も放棄され、多くのイマジニアが一時帰休となり、突然の分断と孤立によって創造的なプロセスが中断されました。

– ボブ・ウェイス社長は「偶発性(セレンディピティ)」の喪失を嘆き、マーティ・スクラーが言う「廊下文化」がなくなったことでアイデア交換が困難になったと述べています。

– 過去にディズニーランドが閉園したのは、ケネディ大統領暗殺の翌日と2001年9月11日のみでしたが、COVID-19による閉鎖は13か月以上という過去最長となりました。

– 上海ディズニーランドは2020年5月11日に再開し、その後各パークも人数制限やマスク着用、ソーシャルディスタンスの確保などの対策を講じて段階的に再開していきました。

– 2021年4月、ディズニーランドとディズニー・カリフォルニア・アドベンチャーが412日ぶりに再開し、熱心なファンが前日の深夜から集まって「魔法の帰還」を祝いました。

II. レレバンシーを求めて

– パンデミック中も、イマジニアリングは適切な健康安全プロトコルの下でプロジェクトを継続し、「ゲスト体験を第一に考える」という目標に向かって前進し続けました。

– カーメン・スミス(クリエイティブ開発副社長)が率いる「レレバンシー・チーム」は、2010年から古いアトラクションを現代のゲストの期待に合わせて更新する取り組みを行っていました。

– 「レレバンシー・ウォーク」と呼ばれる点検では、ノスタルジーや伝統に曇らされることなく、文化的感受性、ジェンダーバランス、世代バイアス、環境問題などの観点からパーク体験を見直していました。

– リバティ・スクエアの歓迎プラークにあった「紳士農場主(GENTLEMAN PLANTERS)」という奴隷所有者を連想させる表現など、時代錯誤の要素が特定され変更されました。

– スプラッシュ・マウンテンは2016年から検討されていた改装計画に基づき、問題のある「南部の歌」のテーマから「プリンセスと魔法のキス」のティアナ王女のストーリーに変更されることが発表されました。

– ジャングル・クルーズも陳腐化した文化的ステレオタイプを取り除き、アルバータ・フォールズという新しいキャラクターを中心とした一貫したストーリーラインを導入しました。

– デブラ・コールズ(コミュニケーション・公共問題担当ディレクター)は、「多様なグローバルオーディエンスに語りかける体験を創造すること」が最大の挑戦であり、「包括性と接客がマージして、誰もが自分らしくいられる環境」を作ることが目標だと述べています。

III. 世界中のマーベル

– アベンジャーズ・キャンパスは、パンデミック前から計画されていたプロジェクトで、2021年6月にディズニー・カリフォルニア・アドベンチャーにオープンしました。

– スコット・ドレイクが率いるマーベル体験チームは、パンデミック中の2020年8月にキンジェット(アベンジャーズの飛行機)を設置した時、「アベンジャーズがヒーローとして着陸し、『大丈夫だ』と言っているよう」に感じたと述べています。

– 新しいWEB SLINGERSアトラクションでは、ゲストがスパイダーマンのようにウェブを放ち、暴走するスパイダーボットを捕獲する体験ができます。

– EPCOTに建設中の「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:コズミック・リワインド」は、360度回転する車両を持つ「オムニ・コースター」で、ディズニー初の後方発射式コースターとなります。

– 最も革新的な技術の一つは「スタントロニクス」と呼ばれるもので、スパイダーマンが建物の上空60フィートの高さを飛び回るスタントを可能にする自律型ロボットです。

– イマジニアのトニー・ドヒとモーガン・ポープが開発したこの技術は、何年もの研究の末、慣性計測装置(IMU)と高度なアルゴリズムを使って、人間のパフォーマーにはリスクが高すぎるスタントを実現しました。

– ジョン・スノディは、ディズニー・リサーチという部門の創設をボブ・アイガーの「最大の技術革新」と評価し、映画制作からアニマトロニクス、ロボット工学まで幅広い分野に技術革新をもたらしたと述べています。

IV. 塀の向こうへ

– イマジニアリングの使命は70年近くの間、基本理念は変わらないながらも常に進化し続け、テーマパークの枠を超えて、野球場、博物館、クルーズ船、そしてリゾートホテルなどへと拡大していきました。

– 「ディズニーズ・ホテル・ニューヨーク – ジ・アート・オブ・マーベル」は2021年6月にパリにオープンし、初のスーパーヒーローをテーマにしたリゾートとして、美術館、高級ホテル、パークアトラクションの要素を融合させています。

– イマジニアのバブナ・ミストリーは、ホテルを「時間の中で凍結させない」ことの重要性を強調し、到着の瞬間から部屋への旅まで、すべての細部がストーリーを伝えるように設計されていると説明しています。

– 「スター・ウォーズ:ギャラクティック・スタークルーザー」は、単なるホテルではなく、2日間にわたる没入型の体験を提供する新しいタイプのアトラクションで、クルーズ船のように決まった出発時間とスケジュールを持ちます。

– この「宇宙クルーズ船」「ハルシオン」では、ゲストは宇宙へと「発射」され、宇宙船内での生活を体験しながら、「バトゥー」への寄港を含むストーリーの一部になることができます。

– イマジニアのアン・モロー・ジョンソンは、「これは2日間の没入型演劇のようなもので、自分の役割を演じ、登場人物とどう交流するかを決められる」と説明しています。

– スコット・トロウブリッジは、「没入型演劇、インタラクティブゲーム、選択型アドベンチャー、優れたゲストサービスを組み合わせたもの」と表現し、「ゲストを観客から参加者へと変える」ディズニーの取り組みの大きな一歩だと述べています。

この章から読み取れる重要なポイント:

1. イマジニアリングは前例のない危機(パンデミック)に直面しても、創造力と適応力を発揮して新しい働き方を確立し、プロジェクトを前進させ続けました。リモートワークという制約の中でも、イマジニアたちは「魔法を作り出す」という使命を忘れませんでした。

2. 「レレバンシー(現代性)」への取り組みは、単に古いアトラクションを更新するだけでなく、多様なゲストが自分自身を物語の中に見出せるような、より包括的な体験を創造するというイマジニアリングの進化を示しています。文化的感受性、ジェンダーバランス、環境問題などの観点から継続的に見直しが行われています。

3. テクノロジーの進化は、「スタントロニクス」のような革新的な開発によって、これまで不可能だった体験を実現させる原動力となっています。ディズニー・リサーチの設立は、長期的な研究開発への投資がいかにテーマパーク体験を変革するかを示しています。

4. イマジニアリングの影響力はテーマパークの枠を超えて拡大し続けており、ホテル、クルーズ船、そして「スター・ウォーズ:ギャラクティック・スタークルーザー」のような新しい体験形態へと進化しています。すべての体験が「ストーリーテリング」を中心に据えています。

5. ディズニーの知的財産と体験の関係は双方向に進化しており、映画やテレビから生まれたキャラクターや世界をパークに取り入れるだけでなく、パークで生まれた新しいストーリーやキャラクターが他のメディアに影響を与える循環が生まれています。「バトゥー」や「ハルシオン」のように、パークからスタートして他のコンテンツに広がる新しい世界観の創造が進んでいます。​​​​​​​​​​​​​​​​

…“レレバンシー(現代性)”という言葉は、初めて聞きますが、他の言葉に置き換えるのは難しいでしょうか。

「レレバンシー(現代性)」という言葉について、確かに日本語ではあまり一般的ではありませんね。英語の “relevancy” を直訳すると「関連性」「適切性」といった意味になりますが、この文脈では単純な訳語だけでは意味が十分に伝わらないかもしれません。

代替となる表現としては、以下のようなものが考えられます:

1. **時代適合性** – 現代の価値観や感性に合わせて更新すること

2. **現代的共感性** – 現代の多様な観客が共感できる要素を取り入れること

3. **時代への応答性** – 変化する社会や文化的背景に対応すること

4. **現代的意義付け** – 古いコンテンツに新しい意味や価値を見出すこと

イマジニアリングの文脈では、「レレバンシー」とは単に「古いものを新しくする」だけでなく、「現代の多様な観客が自分自身を見出し、共感できる体験にする」という包括的な取り組みを表しています。時代の変化、社会的価値観の進化、文化的感受性の高まりに応じて、体験を常に見直し更新していく姿勢を表す概念だと言えるでしょう。​​​​​​​​​​​​​​​​

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